令和3年度 京都市温泉観光活性化のための魅力発信事業『水と京都と温泉と~京都に息づく水の文化を紐解く~』

[開催日]2021年11月26日(金)(いい風呂の日) [場所]賀茂別雷神社(上賀茂神社) 外幣殿前芝生

2021年11月26日(金)、神山湧水が湧き境内に小川が流れる日本最古の上賀茂神社にて、京の温泉をテーマにしたシンポジウムが開催されました。
当日は京都府立大学大学院の松田法子准教授をファリシテーターにお招きし、佐々木酒造株式会社の佐々木晃氏、嵐山弁慶の磯橋輝彦氏とともにトークセッションを開催。
「水と京都と温泉と~京都に息づく水の文化を紐解く~」というテーマで、温泉や日本酒、京料理といった文化的側面から京都と水の関わりを紐解き、“温泉地”としての京都の楽しみ方に迫りました。

賀茂別雷神社(上賀茂神社) 外幣殿前芝生

[トークセッション登壇者]松田 法子 氏/佐々木 晃 氏/磯橋 輝彦 氏

豊かな水が生み出す京の酒

松田
京都と水というのはとても縁が深く平安京時代以来からの関わりがあって、なおかつそれを元にした色々な文化がありますね。温泉もお酒も食事もすべて京都の水でつながっています。佐々木酒造さんは京都の中心部で造り酒屋をされていますが、創業はいつ頃なんですか?
佐々木
うちは明治26年からですから、創業128年ほどになります。造り酒屋としてはまだまだ若くてベンチャーみたいなもんですよ。京都で造り酒屋というと皆さん「伏見のどこですか?」っておっしゃるんですけど、うちは市内の真ん中にあるんです。明治後期ぐらいまでは伏見より京都の中心部のほうが造り酒屋の数も生産数も多かったんですよ。色んな理由があって伏見や他のところに移ったり転業されたりということで、少なくなっていってしまったんです。
松田
都の町の下を流れる水は、酒を仕込む水としても良かったのですか?
佐々木
京都は町中どこでも名水があるんですけど、うちの蔵のあるまわりは豊臣秀吉の聚楽第跡の名水といわれています。造り酒屋の密集地だったところなんですよ。他にも造り酒屋がたくさん集まる場所が、5箇所ほどあったそうです。

トークセッションの様子

松田
佐々木酒造さんの近くの二条城のあたりは、平安京の内裏にあたる場所ですね。二条城の南に神泉苑という泉の湧くお庭があるのですが、そこは京都で日照りが続いても絶対に水が涸れないということから宮中の雨乞いの儀式が行われてきたところです。今の十倍くらい広さががあったそうですけれど、そういうことを考えるにつけても、二条城のあたりはすごく水が湧きやすいところなのかなと思います。
佐々木
うちの近くも出水通というのがありますし、昔は雨がたくさん降ると水が吹きだしたこともあったみたいです。
松田
佐々木酒造の仕込み水は敷地のなかから出ているんですか?
佐々木
うちの場合は蔵のなかに井戸水が2つありまして、そのうちの1つをすべて仕込みの水に使っています。温度はだいたい17℃くらいですね。あまり上がって欲しくないのですが、この20年くらいで2℃ほど温度が上がってしまいました。それでも真冬の寒い時期は、井戸から水を出したら湯気がでますよ。一年中同じ温度だから、冬は温かく夏は冷たく感じます。
松田
聚楽第のお水はどんな水ですか?
佐々木
軟水なんですけど、山あいの軟水よりはある程度ミネラルがあります。日本酒は硬度が高いと発酵が活発になって、辛口になったり酸が多くなったりするんです。軟水だとゆっくり発酵が進むので、酸味の少ないきめの細かい酒質になりやすい。よく「硬水の灘は辛口で、軟水の伏見は甘口」みたいなことをいいますね。そういう傾向はありますけど、わたしらでも辛いお酒はつくれますし、灘でも甘いお酒をつくっているところはあって、つくりでコントロールできるので一概には言えません。ただ、発酵がゆっくりな分コントロールしやすいので、お酒づくりには使いやすい水です。

水と温泉にゆかりある嵐山

松田
旅館である嵐山弁慶さんのある嵐山は観光地の代表格ですが、やはり水との関わりは深いのでしょうか?
磯橋
そうですね。最近では大雨による水害のほうが有名になってしまった嵐山ですけれど、もともと嵐峡といわれて山と川のある風光明媚なところですから水との関わりは深いですね。嵐山を流れる大堰川は、もともと保津川から流れてきて、渡月橋を超えると桂川になり、やがて淀川になって大阪湾に流れ込みます。角倉了以さんが治水をしてくれて筏(いかだ)がたくさん通れるようになり、京都市内に材木を運んでいたんです。
松田
もともと平安京を作るときの材木もその保津川を下ってきたそうで、嵐山は川の港だったようですね。やがて月や風光や水の美しさが名所になり、名所から観光地に変わっていった。
磯橋
平安時代などは渡月橋より上流あたりは宮中の人しか入れなかったそうで、船を浮かべて歌を詠んでいたような場所だったそうです。歴史的文化的な場所がたくさんありますので、明治30~40年代頃から地元の先達が嵐山の観光を世界に向けて発信しようとされてきました。今はもうかけらもないんですがその頃に嵐山焼という焼物があったり、温泉を掘ったりしていたんです。
松田
明治30~40年代に、すでに温泉を名乗っていたのですか?

トークセッションの様子

磯橋
渡月橋の上流に、かつて嵐峡館(らんきょうかん)という老舗旅館がありまして、そこが嵐山温泉を名乗っておられました。今は「星のや京都」さんというホテルになっている場所です。それから時代を経て2004年、嵐山の観光の起爆剤になるものはないかということで当時の嵐峡館やうちの父(嵐山弁慶2代目)、地元の金融機関などが集まって「嵐山で温泉を掘ろう」となったんですね。阪急嵐山駅のほうに阪急電鉄の創業者である小林一三さんの持っていた土地があるのですが、開発せずに置いてあったところを「地元の活性化のためならば」と貸していただけて、1200mほどボーリングして嵐山温泉を掘り当てました。
松田
もともと明治期に嵐山温泉を名乗っておられるところがあって、2000年代に入ってから温泉をもう一回やってみようかとなったのですね。
磯橋
はい。もともとは井戸水に近い冷泉だったと聞いてますが、1200m掘ることによって今は35.2℃ほどの温度があり、毎分80ℓの湯量があります。
松田
そうすると岩盤の下というか、明治時代より少し古い水なんでしょうか?
磯橋
そうですね。実は1kmぐらいしか離れていないところにスーパー銭湯さんもあるのですけど、泉質が全く違うんですよ。先生もご存知だと思いますが古代の頃は京都市内のほとんどは海だったそうなので、その頃のことも関係しているかもしれません。深さによって地質や水脈に違いがあるのかなと思っています。
松田
ちなみに嵐山温泉はどんな泉質なんですか?
磯橋
成分表では単純温泉で低アルカリなんですけど、pH値だと8.2ほどありますので、肌に優しいまとわりつくような泉質です。お肌に良い温泉となっていますので、女性の方には特におすすめですね。
松田
そうですか、それは入ってみたいですね。旅館のお風呂が温泉というのは、嬉しいですよね。
磯橋
ずっと昔から来ていただいているお客様のなかには、「温泉が出て京都観光が変わった」とおっしゃる方もおられます。京都観光に温泉を期待されない方もおられたんですが、今は温泉も一つの楽しみという形で喜んでいただいています。わたしどもの場合、男女の内風呂、露天、貸切露天風呂を備えていたのですが、外国のお客様などから要望もあって、すべての風呂を貸切で楽しんでいただけるスタイルに変えました。その後新型コロナの流行が起きましたが、お客様同士の接触を避けた形でご利用いただけています。

トークセッションの様子

水や酒に次いで、温泉も京都ブランドに

松田
実は京都の温泉は泉質も豊か。日本の温泉法に定められているのは10種類なのですが、京都には6種類あるそうですね。単純温泉が一番多いですが、塩化物泉、炭酸水素塩泉、含鉄泉、硫黄泉、放射能泉と、実にいろいろな種類の温泉が、市内の広い範囲にあります。京都と温泉というとある種新しい観光の形になりますけれど、どんなことに力を入れていくと京都と温泉が結びついていくとお考えですか?
磯橋
京都は全体で面として捉えていくべきではないかなと思っています。ひとつの温泉地が観光地であるというのではなく、京都に来たらいろんなところを回って京都のなかで宿泊して温泉を楽しんでいただける。日帰りで来ても、嵐山でしたら嵐電の嵐山駅の中やバスプールで足湯が楽しんでいただけます。また、いろんなところでいろんな泉質が楽しめますから、市民の方にももっと温泉を知ってもらえたらいいなとも思っています。スーパー銭湯や日帰り温泉など旅行以外でも温泉に触れていただける機会が日常にあるといいですね。
松田
そういう場所も京都市温泉観光活性化協議会さんも関わりながら準備していけるといいですね。温泉も地下水も井戸水も、京都の水というわけですが、佐々木さんは京都の水を考えたとき、どんなところを大切にしていきたいとお考えですか?
佐々木
日本酒は全国に1200ほど酒蔵があるんですが、それぞれ地域の食文化とともに育んできた歴史があります。京都においては伏見も含めてですけれど、やはり京の酒は、京料理と一緒に成長してきたんです。わたしどもは京料理に合うようなお酒をつくりますし、料理人も京都の酒にあわせてアテをおつくりいただいている。その面で、お料理もお酒もお茶もすべて水に関わることですから、食文化は水が支えてくれているんですね。これからもこのいい水を使って、とくに我々は食の分野ですけれど京都ブランドというものを、大事にして育てていこうと思っています。
松田
京料理やお酒といった食文化と水との関わりは切っても切れません。多くの観光客をお迎えするなかでその京都ブランドに同じ京都の水文化である温泉がどう入ってくのか。これからというところですね。
磯橋
その通りですね。わたしどもでは、温泉に入ってくつろいでいただき、そのあと夕食には京料理を提供させていただいております。今お酒はいろいろ発達しているのですが、やはり佐々木さんがおっしゃるように、美味しい京料理には日本酒をちょっといただきたくなるものです。水や酒に追いついて、温泉も京都の観光の一助となれるよう目指していきたいですね。

トークセッションの様子

Profile

松田 法子

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 准教授

松田 法子

建築史・都市史。近年は建築や集住体のフィールドワークを、地形・地質・水系・地域史などを複合した広域なエリアスタディとして取り組み、これを領域史として提起する。NHK「ブラタモリ」熱海・別府・有馬編案内人。

佐々木 晃

佐々木酒造株式会社 代表取締役社長

佐々木 晃

産業機械販売会社で働き、25歳のとき、洛中で120年以上続く「佐々木酒造」に入社、40歳で代表取締役社長に就任。千利休が茶の湯で使ったといわれる良質な地下水を使用し、清酒「聚楽第」などを醸造。人気俳優の佐々木蔵之介を兄に持つ。

磯橋 輝彦

嵐山辨慶 代表取締役社長

磯橋 輝彦

大学卒業後、東京の商社で営業職を経験、お客様との対話の大切さを学び帰郷。上質なおもてなしと魅力的な21世紀型の「旅館」として新たなビジネスモデルをつくるとともに、京料理や嵐山温泉と名勝嵐山の地域文化の発信も行っている。

シンポジウム内で紹介された湯道具

オリジナルデザイン手ぬぐい

オリジナルデザイン手ぬぐい

手ぬぐいをご製造いただいたのは、京都にて十四代、400年以上続く日本最古の綿布商(めんぷしょう)であり、現在では、多彩な色柄の高品質な手ぬぐいや風呂敷をはじめとした綿布を取り扱う「永楽屋」です。

永楽屋 永楽屋

永楽屋さんからのコメント
京都の温泉の魅力発信に繋がればと思い、今回キャンペーンに参加させていただきました。ぜひ手ぬぐい片手に京都温泉旅行にお越しください。
永楽屋ホームページ https://www.eirakuya.jp/

オリジナルデザイン京扇子

オリジナルデザイン京扇子

京扇子をご製造いただいたのは、創業以来百年間、扇子の製造から販売までを一貫して手掛けており、また製造・販売のみならず、投扇興(とうせんきょう)の体験や、扇子の歴史、扇子の作法をはじめとした和のたしなみを学ぶ体験を行っておられる「大西常商店(おおにしつねしょうてん)」です。

大西常商店 大西常商店

大西常商店さんからのコメント
今回制作した扇子は、扇ぐたびに香りを楽しめます。京都へ温泉旅行の際には是非お供にお連れ下さい。
大西常商店ホームページ https://www.ohnishitune.com/

清水焼タンブラー

清水焼タンブラー

清水焼タンブラーをご提供いただいたのは、京焼・清水焼の専門店として始まり、現在は陶器を中心に全国各地の工芸品を幅広く取り揃えている「朝日堂」です。

朝日堂 朝日堂

朝日堂さんからのコメント
今回のキャンペーンを通じ、少しでも京都市内の温泉を盛り上げられたらと思っております。今回提供したタンブラーは、京都の古来よりの名産である清水焼です。職人の手仕事で仕上げた一品を是非お楽しみください。
朝日堂ホームページ https://www.asahido.co.jp/

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